協会news|日本スーパーマーケット川野幸夫会長「デフレ助長政策に物申す」

12月25日(水)、一般社団法人日本スーパーマーケット協会の川野幸夫会長((株)ヤオコー会長)が2019年を振り返り、消費増税後のスーパーマーケット業界が置かれている状況について語った。なかでもキャッシュレス決済によるポイント還元の課題について厳しい見方を述べた。その会見を再現する。

【川野幸夫会長発言】
2019年はスーパーマーケットの業績そのものは低迷しました。2018年11月から前年比100%を割った状況が続いています。一番大きく影響したのは消費税の増税であり、そのなかにおけるキャッシュレス決済によるポイント還元です。

2016年11月に5%ポイント還元の問題が急に持ち上がりました。業界における競争環境を大きく破壊するものだから考え直してもらいたいと、日本チェーンストア協会や日本チェーンドラッグストア協会とともに申し入れましたが、残念ながら一顧だにされずに、政策として実施されてしまいました。

その結果、最も懸念していた状況が生じてしまいました。それは業界における競争環境が破壊されたために、ポイント合戦や安売り競争が拡がってしまったことです。この状況をできるだけ早く改善して、正常に戻すことが大切だと考えています。したがって早期にキャッシュレス決済によるポイント還元を止めてもらいたいと考えています。

キャッシュレス決済そのものが悪いわけではありません。いわゆる中小企業を保護するという基準を設けて、適用される企業と適用されない企業の枠をつくったことが一番の問題です。適用されない企業はそれなりの対応をせざるを得ないため、ポイント還元や安売り競争が激化してしまったわけです。ある意味、体力勝負の競争が始まってしまいました。そうでなくても大変厳しい競争環境にありますから、企業間における優勝劣敗はますます大きくなると懸念しています。

ヤオコーも10月にポイント5倍のセールを展開しました。それなりの対応をしなければならなかったからです。ヤオコーにとって初めてのポイント販促でした。

ポイントを付与して売れると、努力の度合いが少なくなります。ポイントに頼った商売を続けると、決算のときに大変な状況が生じます。ポイントは「麻薬」だと言われます。ポイントで売れるとなかなか止められなくなるからです。そのうちに企業の体力が消耗されていってしまいます。したがってこんなバカげた政策は一日も早く止めてもらって、平等な同じ土俵の上で、公正な競争をしていくことが大切だと考えています。

適用されている中小企業は、適用されていない企業よりも努力が足らなくなるとも思います。したがってこの政策が終了したときの状況を、協会の長として心配しています。適用されない企業はこの状況を打破しようと努力しますから、その努力で力の差が出てきます。これ以上の混乱や業態の衰退がないようにしなければなりません。

小売業にとっても問題ですが、大きな意味ではデフレを助長している政策とも言えます。

ヤオコーのバイヤーは「安売りをし続けているとバイイング力がなくなり、日本に良質の商品が入ってこなくなる」と懸念しています。そうでなくとも、中国に買い負けしている部分が相当あるからです。これも大きな問題です。

食品は軽減税率が適用されているので、販売に関しては大きな影響はなかったと思いますが、2%の分の可処分所得は減るわけですから、よほど努力をして財布のひもを緩めていただく商品やサービスの提供をしないと、成績は上がっていきません。

昨年からポイント還元の問題に反対をしてきましたが、一般マスコミを含めて多くのマスコミには取り上げてもらえませんでした。残念ながら小売業の政治的な力が弱いことを実感しました。

キャッシュレスによるポイント還元について、影響力のある政治家に意見を申し上げたが、話は聞いてもらえませんでした。これまで業界活動をしていて、今回ほど無力感を感じたことはありませんでした。やはりこのままではだめだということをつくづく感じます。スーパーマーケットだけでなく、小売業全体でいかに大同団結していくのか。小売業が大きな力を発揮するためにどういう対応をすべきかを、一から考え直さなければならない時期にきていると思います。

トランプ大統領が関税の問題を取り上げたときに、アメリカの小売業協会は真っ先に反対の意思表明をし、それがニュースで取り上げられ、世界で話題になりました。日本では反対表明をしましたが、ほとんど取り上げられずに終わりました。小売業の政治的発言力は弱いと感じます。GDPの3分の2は個人消費です。そこに関わっているのが小売サービス業です。

しかしマスコミにキャッシュレスポイント還元について応援してもらったという感じはありませんでした。失礼な言い方ですが、マスコミの方々は何を思っているのか、と正直、思いました。それほど悔しい思いをしました。マスコミの皆さんの意思や意見を示してもらえないと、われわれの意見は行政や政治に伝わらないからです。

2020年も行政や政治に対して、本体価格表示の継続と総額表示の義務化を止めてもらうよう求めていきます。また複数税率となる軽減税率の導入にも反対してきましたが、われわれの力が足りなくて、実施されてしまいました。イートインコーナーは、高齢化社会を考えるとさらに大切な場所となります。積極的に利用いただくためには、食品全体を軽減税率対象にしてもらいたいと考えます。

特定技能検定についても、残念ながらスーパーマーケットは対象業種に入っていませんので、課題の一つとして積極的に働きかけをしていきます。

そしてレジ袋の有料化の問題は、地球温暖化、プラスチック問題から積極的に進めたいと考えますが、その際、例外をつくらないことが大事ですので、これも政府や行政に求めていきたいと思います。

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