三越伊勢丹フードサービス内田貴之社長の「高質スーパーマーケット」復活の焦点
11月21日、スーパーマーケット統計調査発表の記者会見が行われた。その席上では毎月、スーパーマーケット3団体のいずれかの加盟企業の代表者が直近の実績や動向を発表する。
11月のゲストスピーカーは三越伊勢丹フードサービスの内田貴之代表取締役社長が登壇した。
三越伊勢丹フードサービスは高品質スーパーマーケットの「クイーンズ伊勢丹」を展開している。2008年に三越と伊勢丹が経営統合し、持株会社三越伊勢丹ホールディングスが設立された。さらに2011年4月に三越の食品製造卸売子会社であった株式会社二幸と伊勢丹の小売子会社であったクイーンズ伊勢丹とが経営統合し、株式会社三越伊勢丹フードサービスという新しい組織が誕生している。まだ3年半ほどしか経過していない会社であるため、まだまだ企業変革の途上にある。
総店舗数は33店。基幹百貨店の食品専門店は伊勢丹新宿本店、三越日本橋店、三越銀座店の3店舗。その他の地域百貨店には12店、食品スーパーマーケットの「クイーンズ伊勢丹」は小型店の「クイーンズ・アイ」を含めて19店舗。それぞれの売上げ規模は40億円、100億円、そしてクイーンズ伊勢丹が340億円というピラミッド型。
スーパーマーケット部門の既存店売上高推移を見ると、高質スーパーマーケットならではの特異な結果となっている。
経営統合後の2012年はずっと不調だったものの、2013年はコンスタントにスーパーマーケット統計の数値をクリアするようになった。しかし消費増税前の2月、3月は業界平均を大きく下回っている。つまり、クイーンズ伊勢丹では「駆け込み需要」が発生しなかったのだ。しかし、その分、4月は前年対比マイナス0.5%と増税後の反動が少なかったのも特徴。ちなみにこの月のスーパーマーケット全体の実績はマイナス3.6%であった。
店舗の特徴としてはJR沿線など、客数・客幅の広い駅チカの店舗が強い反面、杉並などの住宅街の店舗は苦戦している。店舗年齢としては2年、3年選手が頑張っており、新店や店舗改装なども積極的に進めている。
今回の記者発表の前日に、ちょうどクイーンズ伊勢丹目白店がオープンした。目白駅から徒歩1分の場所に同日オープンした商業施設「トラッド目白」の1階と地下1階に入居している。
<トラッド目白HPより画像引用>
1階には「シェフズベーカリー」というイートインコーナー併設のベーカリーショップを設置。将来的にはスーパーマーケットには必要不可欠な自営のイートインを作りたいと考えているが、今はまだレストランのノウハウがないので、この店はプロントと提携している。
そして地下1階が「クイーンズ伊勢丹」の食品売場。約200坪ほどの売場には青果、精肉、鮮魚から惣菜、グロサリー、アルコールと一通り揃っている。特に青果の売場づくりや商品力には力を注いており、エンターテインメント性の高い売場が作られている。
<クイーンズ伊勢丹HPより画像引用>
今後、目白店のようなライフスタイル提案型店舗開発を目指していく。装飾は木のぬくもりをコンセプトに、ゆったり、家庭のリビングにいるような空間を作り上げる。ただしこれは主通路や一部売場に限られており、逆に各アイルの通路幅が犠牲になっているなど売場づくりに課題は残る。
一方で、クイーンズ伊勢丹では2014年に入ってから従業員に「基本の徹底」を教えている。欠品をなくし、商品の前出し作業を徹底的に行うため、毎日2回、従業員全員でローテーションで行っている。そうすることで、全員が売場の状況を把握し、お客に質問されても必ず返事ができるようにしている。
ヤオコー、日本マクドナルドを経て、昨年4月にクイーンズ伊勢丹社長に就任した内田社長は「このような取り組みが従業員に根付いてきたことにより、社内のムードもよくなり、意識が変わってきている。ヤオコー並みにもっていきたい」と意気揚々と語った。
各業態の立ち位置をマトリクスで分析すると、クイーンズ伊勢丹は現在、ライフスタイル型を志向しているものの、サービスが不十分なセルフ販売に傾倒している。それを将来的にはライフスタイル型かつホスピタリティの高いところまで引き上げたいと考えている。そして幸い、三越伊勢丹の子会社であるクイーンズにはそのノウハウを学ぶ土台も術もある。
クイーンズ伊勢丹の全盛期は故田村弘一さんが社長・会長のころ。全国のクォリティ&サービス型スーパーマーケットを完璧にリードした。「高質スーパーマーケット」という概念や言葉も、田村さん時代のクイーンズ伊勢丹が創り出した。その栄光とその後の挫折を、この会社は体験している。
日産自動車時代の経験を活かして、ヤオコーで作業改善・業務改革を推進し、生産性向上と収益改善に貢献し、さらに日本マクドナルドでサプライチェーンの全体改革を成し遂げた内田さんが、かつてのクイーンズ伊勢丹の成果の、どこを引き継ぎ、どこを改革するのか。
販売スタイルの改革から、商品力・仕入力の強化などグループ一丸となって攻めの姿勢を強める、新生「クイーンズ伊勢丹」がどのように変わっていくのか。高質スーパーマーケット復活の焦点に注目が集まる。
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