2015年百貨店調査で新宿伊勢丹と阪急うめだ店が二強2000億円超
日経MJが、2015年度の百貨店営業調査を発表した。企業別ランキングよりも、個店別の趨勢に注目が集まる。この調査は全国の百貨店86社を対象に集計したもので、今年度は82社から回答があり、回収率は95.3%だった。このうち2015年度(15年4月から16年3月までの決算期)店舗ごとの売上高の回答は76社210店舗。企業ごとの経営戦略などのアンケートについては79社からの回答があった。
日経MJ紙面上では、売上高ランキング210位まで掲載されている。この調査対象210店の売上高合計は6兆3289億円で、比較可能な208店の前年比は0.5%プラスと、微増ながら2年ぶりに上向きとなった。増収店は55店。これは前年の1.7倍となり、店舗全体の26%である。一方、減収店は152店で、前年より20店減った。「爆買い」の恩恵を最も受けた百貨店業態だが、増収55店、減収152店という比率は、依然として百貨店が衰退の途上にある事実を示している。
【売上高ランキング】
ここでは30位までをみてみよう。
2015年売上高ランキング 30位
(日経MJ掲載の表をもとに商人舎にて作成 以下同じ)
1位は伊勢丹新宿本店(三越伊勢丹)。売上高2724億6500万円となり、前年比5.4%プラスとなった。139億6800万円の上積み。三越伊勢丹は他に4位三越日本橋本店、17位三越銀座店がランキングしている。
2位となったのは、阪急うめだ本店(阪急阪神百貨店)。売上高は2183億5800万円で前年比10.4%と二桁の伸びとなった。こちらは205億1900万円も伸ばした。理由は、2012年秋のグランドオープン以来初となる大規模改装を昨2015年11月に実施したこと。阪急阪神百貨店は30位に阪神梅田本店が入っている。
3位は西武池袋本店(そごう・西武)。売上高は1900億1800万円となり、前年比1.4%増となった。10位にはそごう横浜店、27位にそごう千葉店もランキングしている。
大丸松坂屋百貨店は9位に松坂屋名古屋店、15位大丸大阪・心斎橋店、18位大丸神戸店、24位大丸東京店、26位大丸京都店、28位に大丸大阪・梅田店、29位に大丸札幌店と30位までに7店舗がランキングし、健闘している。
高島屋も5位に日本橋店、6位横浜店、8位大阪店、16位京都店、25位新宿店と5店舗が上位に入っている。
伸長率でみると、銀座本店(松屋)が18.1%、117億1300万円増となり、次に三越銀座店(三越伊勢丹)が14.6%で108億6400万円の上乗せとなった。
また、30位には入っているものの、阪神梅田本店(阪急阪神百貨店)は▲17.7%で126億7100万円の減少となっている。14年度期に店舗面積を20%以上減少したことが、影響している。
15年度改装の有無をみると、30店舗中25店舗が改装有りと回答している。MJ調査の210店舗全店をみても改装有りの店舗が多かった。企業の店舗数が増えない百貨店業態は、店舗改装をいかに積極的に行うかで、成長は決まる。しかし下記のグラフに明らかなように、アンケートによると、2016年の設備投資予定額をみると5億円未満が半分以上を占めている。重点内容は「小規模改装」と答えた店舗が62.1%だった。また、「収益力をどう向上させるか」について最も多かった回答は「ローコストオペレーションによる採算性改善」で、68.4%という結果だった。
2016年度設備投資予定額
【3期連続増収】
好調に売上げを伸ばして、3期連続増収店は下記の22店である。好調の原因は、一つは訪日客の消費の影響、もう一つは各店が集客に力を入れ工夫をこらした結果である。
売上高が最も伸びたのは、松屋銀座本店で前年比18.1%プラスだ。同店は、15年9月に訪日客専用売場「ツーリスト ショップ アンド ラウンジ」を開設。「SK-Ⅱ」「クレ・ド・ポー ボーテ」など訪日客に人気のある化粧品の4ブランドのカウンターを並べた。通訳や中国語・英語に精通する販売員が常駐し、カウンセリングしながらの販売で外国人客の集客に力を入れている。
三越銀座店は、14.6%増。15年9月に商品配送や観光案内を1カ所で提供する「海外顧客サービスセンター」を設置。英語や中国語に堪能な専任スタッフを50人配置し対応している。また16年1月には、3300㎡の空港型免税店を開き、海外ブランドの高級品や日本の工芸品を取り扱い、羽田・成田空港にて受け取れる仕組みをつくった。しかし両空港以外を使う格安航空会社の利用客が多く、思ったより出足が鈍い。
ほかにも、空港型免税店を設置しているのは、東急プラザ銀座、福岡三越。高島屋新宿店も17年春に開く予定だ。これからは、訪日客への知名度の向上が課題となる。
訪日客の売上げに支えられている最近の百貨店だが、売上高はずっと下落の傾向にある。松屋銀座本店は3割減、三越銀座も2割減となっている。これは、業態の盛衰とともに、購入商品の変化が影響している。今までの高額品から雑貨や化粧品などの単価の低い商品にシフトしていることが要因だ。
その中で、那覇市のリウボウは、地方店にもかかわらず、沖縄という地の利を生かして売上げが伸び続けており、免税売上高は前年より3倍以上となっている。食品や化粧品フロアを改装して、アジアの訪日客の取り込みに成功している。
【高額品の売れ行き】
下位グラフは訪日客の売上げに大きく影響する高額品の売れ行き状況である。
高額品で売れ行きがよいもの(複数回答)
高額品のうち売れ行きの最多は「腕時計」で31.6%、前回調査比4.6%増。三越銀座店は全館リニューアルオープンに合わせ時計売場を刷新し、約30種類の高額品を取り揃えている。高島屋は東京・日本橋に時計専門店「タカシマヤ ウオッチメゾン」を開業、また玉川店では「ロレックス」の売場を新設した。富裕層を中心に売れ行きは好調だ。
次に多かったのは「宝飾品」「美術・工芸品」で、どちらも24.1%となった。
しかし、「高額品の売れ行きはよくない」も25.3%となっており、前回調査より3.7%増えているのが現状だ。
上記のグラフは、100万円以上の商品を世代別に示したものである。これをみると、60代が60.8%と多く、前回調査比で12.2%増となっている。次は 70代以上で38.0%、50代も30.4%となり、購買客のほとんどが50代以上となっている。
訪日客の高額品需要が収まってきた今、高額品販売は、シニアの需要を徹底的に深堀りするか、次世代の顧客をターゲットとし扱う商品を変えていくのか、各店舗、岐路に立っている。
【全国主要都市の売上高】
地区別売上高をみると8大都市は前年度比2.1%増となり、2年ぶりのプラスとなった。伸び率が最も大きかったのは、東京23区で3.6%増。その中で最も伸びたのは松屋銀座本店の18.1%。要因としては先述の訪日客の取り込み、開店90周年記念祭、紳士服フロアの改装などが寄与した。
次は福岡市で3.0%。福岡市で伸び率が大きかったのは、岩田屋三越の岩田屋本店の5.7%、次に同じく岩田屋三越の福岡三越4.0%。岩田屋三越は、店内で購入した商品を宿泊先のホテルに届けるサービスによりアジアからの訪日客の利便性を高めた。
大阪市も好調で2.7%増となった。阪急うめだ本店10.4%、大丸大阪・心斎橋店7.8%と好調で、大阪市も訪日客の多さがプラスに影響している。
一方、マイナスだったのは、横浜市▲1.3%と神戸市▲0.8%の2都市で、ともに改装工事や賃借の拡大などが売上減少に大きく影響した。
また、地方百貨店はインバウンド効果の恩恵が少なく、人口減やショッピングセンターとの競合もあり、苦戦した店舗が多かった。
2015年度の百貨店が微増ながら前年比0.5%と2年ぶりにプラスとなったのは、インバウンド消費に支えられたと結論してよいだろう。その影響が大きい都市部が好調で、地方店が苦戦した。しかし、2016年4月には中国政府が「爆買い」に歯止めをかけるために関税引き上げ政策を行った。この政策により、インバウンド需要に異変が起き、高額品から単価の低い消耗商品へのシフトが始まっている。訪日客の高額品需要にも助けられていた百貨店だが、今後はそれほど大きな期待をかけることができない。訪日客の中でも中国人は化粧品や衣料品購入が多く、欧米人は和雑貨の購入が多い。このあたりも今後の売場改革へのヒントになるだろう。
また、ショッピングセンター型で生き残りをかける店舗も数多くみられる。「有形財から無形財へ」「モノ消費からコト消費へ」という転換は先進国最大のトレンドである。もともと「コト消費」や「高級高額品」の先駆者だった百貨店だが、他の業態がそれへの対応を強化したら、百貨店の希少性はなくなり、模倣困難性も喪失した。訪日客頼みからの脱却と、日本人の固定客確保への努力が今後の課題となる。地方店は、地元密着・生活密着の取り組みなどの工夫が必要だ。
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