セインズベリーnews|ウォルマート傘下アズダと合併/年商510億ポンドへ

米国のウォルマート(Walmart Inc.)と英国セインズベリー(J Sainsbury plc)が、それぞれ同時に発表した。ウォルマートのイギリスにおける完全子会社のアズダ(Asda Group Limited)とセインズベリーが合併する。

ニュースリリースでは、「コンビネーション」(結合)という言葉が使われている。

イギリスのスーパーマーケット産業は寡占化が進んでいる。そのトップ企業はテスコ、第2位がセインズベリー、第3位がウォルマート傘下のアズダである。

その第2位と第3位がコンビネーションを組んで、テスコを超えるスケールを有し、寡占状態のなかから高い収益性を獲得する。Amazonの侵攻、ドイツのハードディスカウンターのアルディとリドルの進出。少数の顔ぶれによって、ますます競争激化する英国市場で、改めてその競争力を改善し、ビジネスを成長させる。

米国ウォルマートは合併企業の42%の株式を所有することになるが、採決権に関しては29.9%保有の少数株主となる。つまり筆頭株主となることはない。そのかわりに、ウォルマートは29億7500万ポンド(1ポンド150円換算で、4462億5000万円)の現金を受領する。

セインズベリーとアズダの両者の店舗ブランド(バナー)はそのまま維持される。つまり「デュアル・ブランド(二重ブランド)戦略」が採用される。しかし、合併のシナジー効果によって、5億ポンド(750億円)がコストダウンされ、総売上高510億ポンド(7兆6500億円)のスーパーマーケットを中心にした総合小売業が誕生する。生鮮食品、惣菜、グロサリー、ぜネラルマーチャンダイズ、衣料品をもつ大型総合小売企業が誕生する。

両社はイギリス国内に2800店以上のSainsbury’s、Asda、Argosの店舗を持つ。コンビネーションの結果、セインズベリーまたはアスダの店舗閉鎖は計画されていない。さらにイギリス国内でも定評のあるいくつかの小売業ウェブサイトの補完的なネットワークによって、オムニチャネル戦略を展開する。両社合わせた従業員は33万人を超える。

ウォルマートは、この合併によって、約20億ドル(2000億円)の帳簿上の評価損を計上することになる。しかしこれも株価や為替の変動によって変わる可能性もある。合併終了は2019年度後半と予測されている。

アメリカのメディアは、実質的には、「ウォルマートによるアズダ売却」と報じていて、それはイギリスからの撤退を意味する。果たして撤退か、セインズベリーとのコンビネーションによる残留なのか。

今回の合併に関して、トップマネジメントたちがコメントしている。

セインズベリー会長デイヴィッド・タイラー。
「セインズベリーとアスダの組み合わせは、株主にとって価値を創造し、顧客や従業員にとっては、素晴らしいニュースになると信じています。
合併した事業は、わが国で最大の雇用主の一つとして、英国経済にとってさらに大きな貢献者になるでしょう。この提案は、業界が急速な変化を遂げているときに、最も経験豊富で有能な経営陣を集めたことになります。当社は重要な株主としてウォルマートを歓迎し、それらと密接に協力することを楽しみにしています」

セインズベリーCEOマイク・クープ(写真左)。
「これは英国の小売業界で新たな力を創造する変革の機会です。企業は競争力が増し、顧客は現在と将来への希望を得ることができます。よりダイナミックで適応性が高く、弾力性があり、さらに
英国経済への貢献度が高いビジネスを創造します。私はセインズベリーの前にアスダで働いていたので、互いの企業文化とビジネスをよく理解しています。最良のコンビネーションになる可能性を信じています。これは、顧客、従業員、サプライヤー、株主にとって大きな利益をもたらすでしょう。私は非常に興奮しています」

ウォルマート・インターナショナルCEOジュディス・マッケンナ(写真中央)。
「この合併は、国際的成長を促進する新たな方法を模索するわれわれの戦略と一致して、ユニークで大胆な機会を提供するものです。アズダは20年近く前に、ウォルマートに加わりました。これは、世界中のWalmartビジネスにベストプラクティス、新しいアイデアを、才能の源泉として提供してきました。今回のコンビネーションによって、急速に変化する激しい競争の英国市場において、ダイナミックな新しい小売業が誕生すると考えています。これは顧客と株主の両方に対して、さらなる価値を引き出すことになりますが、それと同時にアズダの従業員がセインズベリーとのコンビネーションによってウォルマートとの違いを生み出してくれるだろうと考えています。私たちは、セインズベリー社と緊密に協力して、合併事業のメリットを提供することを非常に楽しみにしています」

アズダCEOロジャー・バーンリー(写真右)。
「アズダとセインズベリーを1つの小売グループにまとめることで、われわれアズダの顧客に対して、店舗でのさらなる低価格化が提供され、さらに大きな選択肢も供与することができます。アズダは引き続きアズダになります。しかし、ウォルマートのサポートを受けたセインズベリーと一緒になって、既存の戦略をさらに加速します。当社へのオファーをさらに魅力的で競争力のあるものにすることができます。アズダの6年間とセインズベリーの10年間の経験から、私は両組織がこの市場で最も才能のある、顧客第一を信じる従業員を雇って、幸運を勝ち取る機会を得ることに興奮しています」

【結城義晴の述懐】ウォルマートの完全撤退ではない。アズダはアズダ、セインズベリーはセインズベリー。アズダはセインズベリーとウォルマートによって、再生される。セインズベリーもウォルマートの協力によって、テスコと闘う。それがトップたちのコメントからわかることだ。しかし彼らの本当の敵はドイツのアルディであり、リドルである。そしてAmazonである。

新しい合併会社(「コンバインド・ビジネス」と呼ぶ)はセインズベリー会長のデイヴィッド・タイラーが議長を務め、
セインズベリーCEOのマイク・クープが執行トップとなる。ウォルマートの国際部門CEOのジュディス・マッケンナは非業務執行取締役として統合事業委員会に加入する。アズダは引き続き、CEOロジャー・バーンリーが率いて、コンバインド・ビジネスのグループ運営委員会に参加する予定だ。

コンバインド・ビジネスは、セインズベリーとウォルマートとアスダの最高指導者によって運営されることになる。
その際、セインズベリーとアズダの両CEOが、両社に籍を置いた経験が生かされるに違いない。

しかしウォルマートは2006年にドイツから撤退している。どちらかというと、流通後進国で強いのがウォルマートである。流通先進国のイギリスで、セインズベリーにアズダを任せて、ファウンダーの役目を果たす腹積もりのようだ。

〈マーケットリーダーとマーケットチャレンジャー、マーケットフォロワーからの見方、考え方は、結城義晴の毎日更新宣言ブログ2018年5月1日版に掲載〉

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