清水商事買収によるイオンリテールのマルチフォーマット・マルチバナー戦略

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イオンリテール(株)は清水商事(株)の買収を発表した。
同時に、清水商事もイオンリテールと出資引受契約を締結し、イオングループ入りする決定を発表した。

イオンリテールはさらに、マックスバリュ東北(株)から新潟県内のスーパーマーケット7店を承継して、県内のマーケットシェアを上げる作戦に出ることも表明。

マックスバリュの店舗バナーは「イオン」に変えられ、イオンリテールは自社の総合スーパー16店舗、「イオン」バナーのマックスバリュの7店、そして清水商事の「清水フードセンター」15店舗で、マルチフォーマット&マルチバナー戦略を展開する。合計は38店舗。

俄然、新潟県内の競争が激しくなってきた。

清水商事に関しては、今年11月末までに既存株主から全株式を取得。そのうえで、清水商事側は12月に第三者割当増資を実施する。結果として、株式の保有比率はイオンリテールが95%、清水商事の筆頭株主の大光銀行が5%となる。

清水商事は新潟県内で「清水フードセンター」を15店、フランチャイズチェーン18店、提携店2店舗を運営している。2015年2月期の営業収益は167億円。

1947年、中島清氏が創業したのが「大和食品マート」の店名の食料品店。その10年後の1957年、セルフサービス方式スーパーマーケット「清水フードセンター」を、先駆的にオープン。さらに1970年、寺尾ショッピングセンターを開設。さらに1972年、フランチャイズチェーンにも乗り出し、第1号店として茂太郎店を開店。

創業者の中島清氏は、1978年に社団法人日本セルフ・サービス協会会長に就任して、地域のリーダーであると同時に、日本の中小スーパーマーケットの指導者という立場にも立った。

1989年には、中島清氏は会長に、中島元一郎氏が社長に就任。しかし21世紀に入って競争は激化、2006年の4月1日には長岡に本拠を置く原信と上越市に本部を持つナルスが経営統合。清水商事の経営も悪化していく。

その後、2008年、元一郎社長の実弟の中島通世氏が社長に就任して、「清水フードセンター経営革新計画」を策定するも、奏功せず、2009年、メインバンクの大光銀行から髙野力三社長を迎えて、実質的に銀行管理となる。その後、2013年、2014年と1年ごとに社長が交代し、現在の田村郁朗社長が、イオングループ入りを決定。

イオングループには二つの選択肢があったはず。
第1は総合スーパーはイオンリテールが展開し、スーパーマーケットはマックスバリュ東北が展開するから、清水フードセンターをマックスバリュ東北に併合して、業態別に別会社で総合的なシェアを高める方法。
第2は、今回のようにイオンリテールの中にマルチフォーマットを持って、地域シェアを高める方法。

今回は後者を選択した。

イオンリテールは現在、本州・四国の6カンパニーに大幅な権限移譲をしている。この中で、新潟県は北関東・新潟カンパニーが管轄するが、このカンパニーが、新潟に関しては、総合スーパー&スーパーマーケットの「両輪」で県内マルチフォーマットを運営するのが「最善」との判断を下した。もちろん、清水フードセンターはそのままのバナーだから、これは38店舗のマルチバナー方式ということにもなる。

清水フードでも、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」の販売はもとより、商品の調達・仕入れの一本化が図られ、電子マネーWAONも活用される。

北関東・新潟という広域の中では、やはり新潟が孤立している。原信ナルスは2013年に北関東のフレッセイと統合し、アクシアルリテイリングとなったが、完全なる統合はこれからだ。したがって、新潟県のイオンリテールはマルチフォーマット・マルチバナーで原信ナルスと戦い、北関東イオンリテールは総合スーパーでフレッセイと格闘する。もちろんこちらにはユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスとして、イオンの子会社になった強力なスーパーマーケット企業カスミが控えていて、フレッセイを挟み撃ちにする。

イオンリテールがマルチフォーマット戦略という方法論を実験することは、イオンにとって、全国的な視野で、ケースバイケースの戦いを展開するために極めて有益である。

アメリカではクローガーがマーケットプレイス型の総合スーパータイプとフード&ドラッグタイプとで成果を上げているし、テキサスのHEBは総合スーパーのHEBプラスとフード&ドラッグのHEB、そして高級スーパーのセントラルマーケットのマルチフォーマットで地域シェアを圧倒的に高めている。イオンリテール新潟は、この作戦をローカルチェーンの単位で実験的に採用したということだ。

新潟で成功すれば、それは全国に、局地的に展開できるという可能性につながる。
ただしこれはもちろん、戦略構想の段階の話であって、実行できるか否かはこれからの現場の問題解決能力にかかる。

俄然、激しくなった新潟戦線とともに、イオンリテールのマルチフォーマット戦略から、しばらく目が離せなくなってきた。

〈by yuuki〉

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