日本スーパーマーケット協会news|川野幸夫会長2019年頭所感の「大同団結」

2018年12月25日(火)、日本スーパーマーケット協会会議室で川野幸夫会長の記者会見が開かれ、2019年頭所感が発表された。

――2018年は洪水や地震など、大きな自然災害があちこちで起きました。改めて甚大な被害を受けた方、また企業に対してお見舞い申し上げます。

2018年のスーパーマーケット全体の業績はまずまずでした。2014年4月に消費税が8%に引き上げられて以後、スーパーマーケット業界は比較的高い業績で推移してきました。ただし昨年の後半あたりからトレンドは下降気味なのではないかと思っています。大都市圏のスーパーマーケットに比べて、地方のスーパーマーケットは、少子高齢化による人口減少が起こっていて、大変な状況にあります。

人手不足もますます深刻な状況にあります。それぞれの企業が女性や高齢者を活用しようと必死ですが、残念ながら、とても間に合わない状況です。現在、あちこちで人手不足による大きな問題が起こっています。

スーパーマーケット年次統計調査でも報告しましたように、必要と想定する人員に対して、正社員は83.4%、パートタイマー・アルバイトは82.1%の充足率です。しかも、時給を上げてもなかなか人員を確保できていません。人手不足のために、ライフラインとしての役割はもちろん、生活者の皆さんの豊かな食生活、楽しい食生活を実現するうえで、思ったようなことができなくなってしまう可能性があります。大変危惧しています。2018年12月に、外国人労働者の受け入れを拡大する「改正出入国管理法」が国会で成立しました。新たな在留資格の特定技能を小売業にも適用するように、ほかの小売業団体とも連携して要請していく考えです。

また、このような環境のなかで、2019年4月1日には「働き方改革関連法案」が施行されます。残業の上限規制や有給休暇の取得促進などに企業は取り組まなければなりません。改めて、業界やそれぞれの企業の生産性向上が大変重要な課題になってきています。日本スーパーマーケット協会でもAIやカメラ、RPA(Robotic Process Automation)など、店舗における省力化や生産性向上に役立つ技術について、調査研究を進めていきます。

消費税増税時の景気対策がもたらす小売りの課題

そして2019年10月からは、10%への消費税増税と軽減税率の導入が予定されています。食品も持ち帰りになると軽減税率で8%、その場で食べると10%となる。今、多くのスーパーマーケット企業はイートインコーナーを設けています。お客さまが混乱しない状況をどうつくるかということが、大きな課題です。

また突然、5%なんていう話が出てきました。増税後の景気対策として中小、小規模事業者を対象としたキャッシュレス支払い時のポイント還元支援です。消費者の利便性、並びに公正な競争の確保の観点から、強い懸念を持っています。

さらに消費税率を大きく上回るような還元率が設定されていますので、事業者間の競争に大きな影響をもたらします。還元されない企業は対抗上、それなりの手を打たざるを得ない状況となります。今まで以上に激しい競争、とくに価格の競争が起こってしまうのではないかと懸念されます。

公正さを歪めてしまうような政策は、ぜひ考え直してほしいと、日本チェーンストア協会、日本チェーンドラックストア協会と三協会で、経済産業省の世耕弘成大臣に要望書を提出してきました。ポイント還元は、商品・サービスを購入する際に、還元策が実施されている店舗とそうでない店舗がありますから、消費者にとってはきわめてわかりづらい制度だろうと思います。日々の買物において必要のない混乱が生じる恐れが強いと、これも大変懸念しています。ポイント還元をするということなら、お客さまにもわかりやすい一律の支援が望ましいと思います。

中小企業基本法で言う中小企業の定義は、資本金が5000万円以下、または小売業の場合は、従業員が50人以下です。資本金というのは意図的にいくらでも小さくできます。日本では中小企業として受けられる恩恵がたくさんあります。大企業でも分類で言うと中小企業に入ってしまう、あるいは入っている場合があるのも事実です。たとえば、ヨドバシカメラさんは資本金が3000万円ですが、売上高は6000億円です。ヨドバシカメラさんは中小企業と言えるのでしょうか。

日本スーパーマーケット協会の会員の中でも、資本金が5000万円以下で、売上高が年商100億円を超える企業が85社のうち13社あります。また、500億円を超えるところは、そのうち6社あります。協会の中でこの問題を議論していないため、私が会長の立場として反対をするということには、きっと異論があるかと思います。しかし、秩序が乱れると、そのことによって価格競争がさらに激化してしまう。あるいは対抗上、価格競争をしなければならなくなって、問屋やメーカーに対する要求が出てしまう。サプライチェーン全体として大きな混乱が起こってしまうような施策に対しては、反対の立場を取らざるを得ません。

消費税増税では価格表示の問題もあります。総額価格表示になると食品の場合一気に8%、価格が高くなったようなイメージになります。前回の消費税増税後、スーパーマーケットの成績が落ちず、かえって上がったのは、総額表示の義務化が外れて、本体価格表示になったからです。もちろん支払う金額は一緒ですが、お客さまの価格に対するイメージは大きく違います。景気の「気」は、気分の「気」です。イメージは大切ですので、景気を冷やさない、個人消費を冷やさない施策として本体価格表示ができる環境を続けてほしいと考えています。

現在、国が進めている「キャッシュレス化の推進」に関しては、2025年までに40%、そして将来80%にまで比率を引き上げるという目標が掲げられています。今後はQRコードの決済についても、技術的、業務的な仕様の標準化を図って、店頭における負担を軽くしてもらうことが大切です。スーパーマーケットは、最終的な利益が平均で2%ほどです。中小零細企業では1%くらいですので、キャッシュレス決済の手数料率を低減するという見直しをしっかりと行ってもらいたいと思っています。

業態を超えて小売りの大同団結をどうつくるのか

軽減税率についてもポイント還元についても、残念なことに、すべてのしわ寄せは私どものような消費の現場を扱う小売業に来ていると感じます。日本スーパーマーケット協会ができたのは、私たちの声を政治や行政に少しでも反映して、私たちの社会的な評価を少しでも高めていくことでした。その思いや願いは全然かなえられていないのが現状で、くやしい思いをしています。

しばらく前でしたが、アメリカのトランプ大統領が輸入商品に関税をかけると言ったとき、全米小売業協会が一番に、大きな反対の声をあげました。政策そのものはそのまま通ったと思いますが、それが世界のニュースになりました。全米小売業協会がそうした大きなインパクトを持っていることをうらやましいと思いました。

日本にもいろいろな業態があって、それぞれに利害・得失があるので、すべての点について意見が一致するというわけではありませんが、ただ、小売業の社会的な評価が高まることは働いている人や、これから就職をする人にとって、大変大きな意味があることです。お互いが協力し合うことによって、実現できることがたくさんあると思います。どのように小売業全体の大同団結をつくっていくべきかということを、改めて考えなければいけない時期に来ていると思います。

大同団結ができない理由の一つに、「商人は静かにしていろ、あまり政治のことに口を挟まない方がいいよ」という私たちの先輩たちの思いや考えがあったと思います。でも今回のポイント還元の問題、価格表示の問題、あるいは外国人の雇用問題は、私たちに直接大きな影響があります。私たち小売業が行政や政治に働きかけるために、業態を超えてコミュニケーションをとっていく、大同団結していく。それを考え、実行していく時期に来ていると思います。そのことが国民のみなさんの生活の豊かさや、幸せにつながっていくと考えるからです。

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